⑨〈製本〉

null
『見続ける涯に火が…【批評集成1965-1977】』中平卓馬(OSIRIS/2007) 見返しからはじまる口絵

null
ジャケットをはずすと見返しの口絵図版と同版面の写真がポンと置かれている

ふつうの造本
服部の手がける造本は、並製本やシンプルな上製本が多い。印刷方法や用紙選定と同じく、造本もできるだけ特殊な手法/工法には頼らないという姿勢が現れている。
『見続ける涯に火が…』は服部の「アタリと仕上げ」の能力が、『横山裕一 ルーム』とは別のかたちで現れている。
『見続ける涯に火が…』の造本は、上製本の表紙と見返しに同じアート紙を選択し、ジャケット(一般にはカバーと呼ばれているがジャケットが正式名称)には同じアート紙にニス引きが施される。ここまではごく普通の設計だが、口絵の置き方がヤバい(正しくは、口絵の置き方のための造本設計がヤバい)。口絵は本文折の前に別丁を差し込み図版を印刷するのが一般的は方法だが、この本では表2の見返しから口絵が始まる(正しくは、表紙から口絵が始まっている)。ニス引きされたジャケットを開くと、光沢ある見返しの口絵が目に飛び込む。見返しから始まる口絵、それだけでも発明と言えるが、ニス引きアリ無しの落差という念入りのデザインが、この発明を加速させる。
この造本は、中平卓馬の60〜70年代の文章に07年の写真を添えるという、難しい編集意図への服部の解だ。
「病気をして文章は書けなくなったけど、70年代に文章で示していた概念を、00年代には写真でやってみせた中平さん。そこから着想したもの」(服部)
お見事。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です