カテゴリー別アーカイブ: 001 町口覚

⑪〈印刷〉

『すべてははじめておこる』Katsumi Omori(bookshopM/2011年)
『すべてははじめておこる』Katsumi Omori(bookshopM/2011年)

オフとUV
ブックショップMの写真集のほとんどが[ハイブリットUV印刷]で刷られている。[ハイブリットUV]は[オフセット印刷]用インクを混合して印刷できる。インクの発色が良くないという[UV印刷]の欠点を、完全とは言わないが解消している。印刷面が乾燥した状態で刷り上がる、ドライダウンがほとんどない、といった[UV印刷]の利点はほぼそのままだ。町口が好んで[ハイブリットUV]を使うのは、インクの乾燥や写りを気にしなくてよいため印圧を限界まで上げることが出来るからだ。とにかく町口はインクを盛る。
『すべてははじめておこる』Katsumi Omori(bookshopM/2011年)『STARS AND STRIPS』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)『incarnation』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)『Bonjour』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)『encounter』Katsumi Omori(bookshopM/2007年)はすべて[オフセット印刷]で刷られている。発色だけでなく用紙とインクのなじみも良い。
「大森のこのやわらかい光はオフでないと無理」(町口)
オフセットで印圧やインクの盛りを上げる場合、刷り上がりを重ね置きするときに使われる[ゲタ]の割合を増やすことで写りを極力少なくする。
ちなみに『encounter』は700線で印刷されている(印刷:文化同印刷)。情報量が多いと言われる大森克巳写真の再現性を高めるためだ。

⑫〈写真〉

『STARS AND STRIPS』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)
『STARS AND STRIPS』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)

『incarnation』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)
『incarnation』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)

『Bonjour』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)
『Bonjour』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)

一作家一年三冊

『STARS AND STRIPS』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)『incarnation』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)『Bonjour』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)は、ブックショップMによる菊2枚フォーマット大森克己3部作だ。このシリーズの先駆けとして、『encounter』があったのではないか。『encounter』は、事務所にこもる町口に花見気分を味わわせるため、毎年4月、桜を撮影した35mmポジを持ってくる大森の「桜の花がほとんど写っていない」スリーブから生まれたものだ。
『STARS AND STRIPS』は2009年1月、大森は「エグルストン写真展」のために訪れたワシントンで、たまたまオバマの大統領就任式に出くわし、街頭放送に群がる群衆を収めたもの。『incarnation』は、同年8月に、渋谷のハチ公前交差点の群衆をモチーフに『STARS AND STRIPS』を〝撮り直し〟たもの。『Bonjour』は同年10月、アトリア海の孤島のうさぎをアウトフォーカスで追った謎の写真集である。
これらが大森克巳による旅の断面シリーズとして、「1+3部作」に見えるのだ。そして、このシリーズが『すべては初めて起こる』(bookshopM/2011)まで続いているように思う。これについて町口の考えを聞きたかったが、今回は時間が足りなかった。いつか大森克巳も交えて、メインタグ〈写真〉の会を開きたい。

⑬〈用紙〉


『Self-image』蜷川実花(bookshopM/2014年)

紙を抄く
『Self-image』の本文は、王子Ftex[OKミューズガリバー グロスCOS ハイホワイト 菊Y目135kg]だ。原美術館で行われた展覧会『蜷川実花:Self-image』(原美術館/2014年)の図録では、[OKミューズガリバー]全7種を使用するという大盤振る舞いだ。
[OKミューズガリバー]は菊のY目T目をそろえる充実したラインナップのファインペーパーで、町口はこの用紙開発に携わった。色味/しなり具合を決定する役割を町口は担当した。
[OKアドニスラフ]の開発にも町口は携わった。[OKアドニスラフ]は、新聞用紙専門の苫小牧工場の製造ラインを使い、木材パルプを材料とした安価なラフ非塗工紙だ。軽さ、印刷特性、そしてその風合いから高い評価を得ており、ラフ非塗工紙独特の「紙焼け」という悪しき特性もまた良しとされている。また、確実にシェアを広げるpod印刷機「Indigo」は、適正用紙の少ない気難しい印刷機としても有名だが、「OKアドニスラフ80」は「印刷適正優良」と判断された。
[アンデス][OKハイランド][かなりや]といった、80年代に流通していた〝使えるラフ非塗工紙〟は、現在はほとんどが廃盤となっている。[OKアドニスラフ]は現在の〝使えるラフ非塗工紙〟だろう。

町口のよく使う書籍用紙
キンマリ/OKプリンス/金藤片面/OKシュークリーム/いしかり
並べるとどれもいたって一般的な用紙だ。

⑭〈ブランディング〉


『STARS AND STRIPS』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)

レーベルとしての統一感
「表紙のパターン、2種類くらいだよね」(松本)
「いや5種類はある」(町口)
ブックショップMの書籍は、ノーブルでシンプルで似た印象のものが多い。長く静かに置かれ続けるようなデザインだ。8年に渡り「Paris Photo」に出店してきたことで、おのずと導かれたデザインだと町口は言う。「いろいろあると沈んじゃうんすよ、店としても、レーベルとしても」。「Paris Photo」のような様々なデザインの書籍が並ぶ場所ではレーベルとしてカラーのない出店者は印象が薄くなる。統一された表紙デザインはそれ自体がブックショップMのブランディングとして機能している。現在、ブックショップMはアジアを代表するレーベルとして認識されるまでになった。
一般的な取り次ぎによる短期集中配本型の書籍には、目を引く工夫や過剰なデザインが求められる。逆に、専門書店などを中心に配本される書籍には、長く置かれる商品性が必要だ。紙質、めくり感、綴じ具合、など感覚に訴えるデザインは効果的だと町口は言う。不織布や小口のギザ入れなどは、ブックショップMの代名詞になりつつある。
「Paris PhotoがなかったらブックショプMは続いてなかったよなぁ」(町口)

⑮〈問題〉


『PARIS PHOTO 2015会場マップ』

デザインに何ができますか?
週末の木金土日4日間の予定で開催された「Paris Photo 2015」は、同時多発テロにより土日の2日が中止された。町口にとっては、まっすぐ行ってまっすぐ帰る『マッドマックス 怒りのデスロード』のような旅となった。例年、「Paris Photo」はブックショップMの年間売上1/3を占めていたが、今年は散々な結果となった。

 ———————————-

 弦人さん
 
 無事です。 かなり大規模なようです。
 事務局からの連絡待ちで宿舎に待機していますが、パリフォトは中止になると思います。

 デザインに何ができますか?

 助言ください。
 よろしくお願いします。

 町口覚

 ———————————-

 町口
 
 まずはよかった!
 マジで。

 助言になるかもわからんが、
 状況を見ろ。
 オイラには現場感がまったくないから、町口の目でよーく見ろ。

 その上で、オイラなら、なんとかしてパリフォト関係の写真家から現場の写真を集め、
 パリのオンデマンド印刷所にぶち込み、パリフォトの記録として置いて帰る。
 もちろん、テロ現場の写真でなくていい。
 今のパリを、パリの空気を、そこに居合わせてしまった「パリフォト」を。

 手伝えることがあれば全面的に協力するから何でも言え。
 つーかヤレ!

 ———————————-

テロ当日、町口からの無事を伝えるメールと、即レスで答えた内容。この判断が正しかったのか、デザインに何が出来るのか、今も答えはわからない。
「現地カメラマンに撮影依頼をしたけどまとめられるものにはならなかった」と松本にメールを送り、町口は「Paris Photo 2015」を終えた。