アイデアではなくコンセプト
W+Kが新しい仕事を始めるとき、最初に取りかかるのが、依頼主の〝ブランド・ボイス〟を導き出すこと。〝ブランド・ボイス〟は、「あなたたちは社会からどう見られている(見られたい)か」よりも、「あなたたちが社会をどう見ているか」を探り当てる。
プランナーとCDは依頼主の企業に潜入し、インタビューをおこなう。相手は上層部だけでなく、経理、営業、企画、総合などの部署から、受付、警備、掃除のスタッフにまで至る。またインタビューだけでなく、オフィス環境、ワークフロー、壁に貼られた書類から備品まで、入念に観察する。ある依頼主には、工場の壁に貼られていた標語をヒントに〝ブランドボイス〟を開発したこともある。日本でプランナーというと、おもにマーケッター的な役割と理解されることが多いが、プランナーの成果がクリエイティブの方向性に大きく影響を及ぼすW+Kのワークフローはそれと異なる。
〝ブランド・ボイス〟が決定してから、クリエイティブが動き出す。プランナーがクリエイティブディレクター、アートディレクター、デジタルクリエイティブらと〝ブランド・ボイス〟を共有し、クリエイティブのコンセプトを固める。アイデアではなくコンセプトを固めることが重要だと、長谷川は言う。日本ではつい、コンセプトではなくアイデアを考えがちだが、W+Kはちがう。目新しく魅力的なアイデアであっても、〝ブランド・ボイス〟から導き出されたコンセプトから外れては価値がないのだ。したがって、アートディレクターやデザイナーが具体的なアイデアや形を作っていくのは、コンセプトが決定してからになる。