⑭〈ブランディング〉


『STARS AND STRIPS』Katsumi Omori(bookshopM/2009年)

レーベルとしての統一感
「表紙のパターン、2種類くらいだよね」(松本)
「いや5種類はある」(町口)
ブックショップMの書籍は、ノーブルでシンプルで似た印象のものが多い。長く静かに置かれ続けるようなデザインだ。8年に渡り「Paris Photo」に出店してきたことで、おのずと導かれたデザインだと町口は言う。「いろいろあると沈んじゃうんすよ、店としても、レーベルとしても」。「Paris Photo」のような様々なデザインの書籍が並ぶ場所ではレーベルとしてカラーのない出店者は印象が薄くなる。統一された表紙デザインはそれ自体がブックショップMのブランディングとして機能している。現在、ブックショップMはアジアを代表するレーベルとして認識されるまでになった。
一般的な取り次ぎによる短期集中配本型の書籍には、目を引く工夫や過剰なデザインが求められる。逆に、専門書店などを中心に配本される書籍には、長く置かれる商品性が必要だ。紙質、めくり感、綴じ具合、など感覚に訴えるデザインは効果的だと町口は言う。不織布や小口のギザ入れなどは、ブックショップMの代名詞になりつつある。
「Paris PhotoがなかったらブックショプMは続いてなかったよなぁ」(町口)

⑮〈問題〉


『PARIS PHOTO 2015会場マップ』

デザインに何ができますか?
週末の木金土日4日間の予定で開催された「Paris Photo 2015」は、同時多発テロにより土日の2日が中止された。町口にとっては、まっすぐ行ってまっすぐ帰る『マッドマックス 怒りのデスロード』のような旅となった。例年、「Paris Photo」はブックショップMの年間売上1/3を占めていたが、今年は散々な結果となった。

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 弦人さん
 
 無事です。 かなり大規模なようです。
 事務局からの連絡待ちで宿舎に待機していますが、パリフォトは中止になると思います。

 デザインに何ができますか?

 助言ください。
 よろしくお願いします。

 町口覚

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 町口
 
 まずはよかった!
 マジで。

 助言になるかもわからんが、
 状況を見ろ。
 オイラには現場感がまったくないから、町口の目でよーく見ろ。

 その上で、オイラなら、なんとかしてパリフォト関係の写真家から現場の写真を集め、
 パリのオンデマンド印刷所にぶち込み、パリフォトの記録として置いて帰る。
 もちろん、テロ現場の写真でなくていい。
 今のパリを、パリの空気を、そこに居合わせてしまった「パリフォト」を。

 手伝えることがあれば全面的に協力するから何でも言え。
 つーかヤレ!

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テロ当日、町口からの無事を伝えるメールと、即レスで答えた内容。この判断が正しかったのか、デザインに何が出来るのか、今も答えはわからない。
「現地カメラマンに撮影依頼をしたけどまとめられるものにはならなかった」と松本にメールを送り、町口は「Paris Photo 2015」を終えた。

DeSs前文

DeSs

「エンブレム事件」は、グラフィックデザインにまつわるさまざまな問題を露呈しました。しかし、問題の多くは「我々(デザイナー)がサボってきたこと」に起因しているように見えます。我々は、人との関わりをサボり、生活との関わりをサボり、社会との関わりをサボってきた。自分と依頼主とデザインという三角関係だけに注視し、デザインは「解決方法」であり「表現」であると都合よく使いわけ、災害/安保/難民/先人の歴史をデザイン的に看過した。結果、「伝わる説明」や「的確な批評」のための土壌を築くことができず、「エンブレム事件」で噴出した「稚拙でゆがんだ民意」にすら向き合うことができなかった。目の前にはやらなければならないことが山積みです。すでに行動を起こしている方々もいらっしゃいますが、グラフィック体系考察の土壌再構築に着手し、社会への理解を広げないかぎり、本質的な解決には繋がらないと強く感じています。「エンブレム事件」以前から存在する「絶滅危惧種グラフィックデザイン」問題に向き合うために、または、「向き合う意義の有無」の検証のために、勉強 Bar「DeSs(デス)」をはじめます。